2009年8月25日火曜日

日本的仕事ぶりとアメリカ的仕事ぶり?

 先日2年ぶりにアメリカ出張に出かけた。2年前の出張で国内線のチェックインには非常な混雑のため閉口したのだが、今回は行きも帰りも違う空港だったせいなのか、それとも以前ほどセキュリティーがうるさくなくなったのかはわからないが、意外にすんなり通ることができた。
 さて、今回も日本米国間は全日空を利用した。普段は外国系航空会社を使うほうなので、久しぶりの日系きめ細かい?サービスは、さすがに恐れ入った。ともかく、日本人的振る舞い全開で、逆にそこまでへりくだらなくてもと思ってしまったぐらいである。純日本人的感覚からすればどうってことはないのだろうけど。
 例えば、機内で免税品を求められた方に、商品を見せるとき、会計をするとき、客室乗務員の方は必ず膝を折り、片膝を床につけて目線を相手より低くして対応していた。
 行きの便は窓側だった。で、隣通路側はアメリカ人の方だったが、どうもその方は国内線からの乗り継ぎでこの便に搭乗したらしい。そして、離陸後まもなくしてから、客室乗務員がやってきて、膝を折り、下から目線で、大変申し訳なさそうに何かをわびている。ところが、当のアメリカ人は、なぜ自分が謝られているのかトンと見当がついていなかった。
 客室乗務員の英語が明瞭でなかったこともあったのかもしれないが、よく聞いてみると前の便で、コーヒーがそのアメリカ人のズボンにこぼれたようなのである。そこで、クリーニング代を後で請求してくれと説明していたのだ。
 そのアメリカ人の男性は、ようやく合点がいったようなのだが、「そんなことはすっかり忘れていましたよ、気にしないでくれ、あなたの責任ではないし。」とかなり困惑気味に返事をしていた。
 日本人なら前の便の事件のことをまったく異なる飛行機の中で詫びを入れられたとしても、同じ航空会社なのだから、なんら不思議に思わないだろうし、逆に、対応がすばらしいなぁとおもうかもしれない。しかし、アメリカ人にとって見れば、おそらく、対応している便の客室乗務員にはなんら関係ないことなのに、なんであんたらが謝るの?と驚いていたのだろう。
 もちろん、日本文化を背負う会社として前の過ちをきちんと引き継いで、最大限に迅速に可能な範囲で対応し誠意を示すということもあるのだろうが、直接の関係者でなくとも責任を引継ぎ、謝罪するというのは、非常に日本的なことだと感じる。
 また、以前のことでも恩義や責任については次回に会ったときに必ず言及するのも日本的で、今回のこともこの日本的プロトコルと関係するだろう。3日前でも、1ヶ月前でも、果ては1年前でもご馳走になった方にその出来事以降初めて会ったときには、「あの時はどうもありがとうございました。」と感謝する。本人は1年も前のことなどすっかり忘れていてもである。
 英語の習慣では、昨日のことでも「昨日はありがとうございました。」と過去の事を持ち出すことはほとんどない。その時その場でお礼を言って終わりである。
 ましてや、自分の責任のあることなど2度も謝罪することはないだろう。もともとその場であっても、日本人のようにすぐ「すみません。」などということばは出てこない(後に自分に重大な責任が課されない場合、例えばぶつかったとか、足をちょっとふんだとかは逆にすぐ謝る、日本人は正反対に謝らないことが多いが)。
 いずれにしても、日系航空会社のサービス振りは、日本人にとってはかゆいところに手が届くという感じで感心する。
 逆に、外資系の航空会社は、自分に課された最低限のことしかしないことが多い。いや、今回の旅でもアメリカ人は、日本人からすれば結構適当な仕事しかしていないように映る。次の目的地へ向かうため乗ったアメリカ国内線では、そんな事例が立て続けに起こったので、なんと言おうか、あきれたというか、アメリカ的だなと妙に納得したことを書こう。
 SFOから目的地へ向かう飛行機に早々と乗り込んだ。自分の席はだいぶ後ろだ。キャリーバッグを転がしながら、真ん中の非常口席のところでおしゃべりをしているキャビンアテンダントの横を通過し、その後ろのほうの自分の席を見つける。さらに後ろのほうには、ほっそりとした女性が荷物を上げようとしていた。
 自分の荷物を上げてその女性のほうを見ると、重いのかうまくあげることができないでいる。早々に入ってきたので、機体後部には私とその女性しかいなかったのだが、女性がうまくあげられないでいるのを見かねて手伝ってあげた。
 "Thank you." "No problem." とお決まりのことばを交わして前の自分の席に戻ろうとしたら、非常口席付近で依然としておしゃべりをしている客室乗務員が見えた。それを見たら、なんだか腹が立った。
 「お宅ら、何してるの。」
 そう心でつぶやいた。もちろん、客同士が手伝うということはいいことである。が、何か腑に落ちない。日本なら。困っている女性を見たら客室乗務員がさっとやってきて、荷物を上げる手伝いをしているだろうに。
 そんな気持ちとともに、ああ、2年前もそんなことがあったっけ、と思い出した。そのときは、混雑していて、客室乗務員が来づらかったこともあったのだが、私が荷物を上げる手伝いをした。でも、なんで客室乗務員が手伝わないの、と思ったことも思い出した。
 気を取り直して、3席の窓側に座って、座席ポケットのインフライトマガジンを手に取る。しばらくすると、どやどやと残りの客たちが入ってきた。まだ、隣の2席には人が来ないので、うまくいけばラッキーだなぁと思ったのもつかの間、すぐにアメリカ人の老齢のご婦人二人が腰を下ろした。
 その後ろを見るとほとんど満席なのだが、なぜか真後ろの席通路側の女性が立ったままでいる。何でだろうと思っていると、客室乗務員がやってきた。
 女性が、座席クッションにしみが付いているから変えろとのことらしい。客室乗務員は、その客を一瞥すると、ぶつくさ言いながら、べつの客室乗務員を呼んで、対応していたが。その対応の仕方は、普通の日本人からするとなんと尊大な、という感じだろう。
 きちんとシートがきれいになっていないのは航空会社のせい、その会社の一員である客室乗務員がなぜ謝らないのか、と思うかもしれない。しかし、ここはアメリカ。そんなことで謝るはずがない。そもそも、その席の汚れはその客室乗務員のせいではない。なぜ、その客室乗務員が謝罪する必要があるのだろうか。もっともである(もちろん、日本では通用しない論理だが)。
 さて、その女性、座席のクッションを変えてもらい、着席。一同そろったところで、キャプテンからの挨拶。どうも、ヒスパニック系のキャプテンらしく、英語に癖がある。
 それを聞いていた隣のWASP系だろう老婦人たちが、その英語にけちをつけている。なんと言っていたか詳細には忘れたが、品がないだの発音が変だの言っていた。軽い人種差別だろうか?あら、隣は黄色いお猿さんだわ、いやだわ。なんて座るときに思われていたりして。
 さて、飛行機も無事安定した airborne の状態(つまり、水平飛行)に移った。早速機内サービス開始。簡単なおつまみ(プリッツ)と飲み物を配る。カートをつるっぱげ、もとい、スキンヘッドの男性客室乗務員と年配の女性客室乗務員とが配っている。男性の客室乗務員からプリッツの袋をもらったのだが、窓側だったため、やや距離があった。普通、手を伸ばして渡してくれるところを、なんと、このスキンヘッド、ぽんと投げてよこしやがった。こんなことは今までにないことで、びっくり。
 さらに、このスキンヘッド、ガムを噛みながらお仕事中。大リーグでガム噛みながら打席に立つ打者や、戦争映画でガム噛みながら行進する米兵、アメリカ人とガムは切っても切り離せないもののようである。日本じゃ考えられない。
 2時間の飛行の後、飛行機は無事目的地の空港に到着。SFOは真夏にもかかわらず、ジャケットを着ていないと寒くて仕方がなかったが、ここは内陸、夏らしく暑いようである。ただ、その暑さが中途半端ではないことが、客室乗務員のアナウンスでわかった。
 「当機は、定刻どおり○×空港に到着いたしました。機体が完全に止まるまではシートベルトをお閉めください。また、携帯電話のスイッチは機外へ出るまでは入れないでください。」
 こんなアナウンスに続いて、こんな一言が。
"Enjoy the heat wave."(熱波をお楽しみください。)
 これには参った。まず、熱波でかなり暑いということにジャケットを着たままの自分を見て、ゲゲッと思ったのもあるが、何よりも気の利いたアナウンスで面白いと思ったのである。
 機内でのアナウンスは、国際線国内線限らず、どの国でも日本国内であっても必ず英語のアナウンスも入る。アメリカ国内は当然なのだが、しゃべっているのは英語のネイティブであるから、アナウンスも単に書いてあることを読む日系や米系以外の航空会社と違い、客室乗務員自らの表現でアナウンスをしてくれることがよくある。
 2年前も、いろいろとウィットを聞かせながら、機内安全の説明をするフライトアテンダントの話しぶりを聞いて、感心したものだが、今回もそのウィットの効いた一言がとても気に入った。
 ちなみに、その日の気温は106度(約41度)だった。その後、借りた直後のレンタカーの中が暑すぎて死にそうだったのは言うまでもない。